2012年7月6日金曜日

[問題提起]持続可能な社会のためには企業と消費者が負担すべきコストがあるのではないか?

久々の更新となりました。
ECの進化に関するエントリーの続きが残っているのですが、まだ結論が出ていないので閑話休題です。

本日は、豊かな社会を実現するためには、企業も消費者もそれ相応のコストを負担しなければならないのではないか?という疑問提起です。

少し本論とは外れるのですが、数年前、洋裁にハマったことがありました。
たまたま時間があったということもあり、ユザワヤやオカダヤ、渋谷のマルナンなどの手芸店で特売品の布を買いあさり、毎日朝から晩までミシンをかけ続けていた時期でした。
そのときわかったのが、高い服には高いなりの理由があり、ファストファッションに代表される安い服とはまったくジャンルが異なるものだということでした。
もともと私はデザイン性の高い服が好きだということもあり、そもそも売っている型紙では自分が満足するようなデザインの服を作ることはできませんでした。(それ以前に、洋裁の腕のレベルが低いので、高度なテクニックを必要とするデザイン性の高い服は作れませんが)
それでも、自分が欲しいと思う服がなぜ高いのかを理解するには十分でした。
素人目の私にわかった一番大きな違いは、布地の方向です。
ファストファッション系の服は、一枚の布からできるだけ効率的にパーツを取るため、布目がバラバラです。
一方、私が欲しいと思うようなデザイン性の高い(値段も高い)服は、洋服のパーツの方向と布地の方向を合わせて裁断してあります。
決まった幅の布地にパズルのようにパーツを組み合わせるのではなく、布目の方向を合わせるために、裁断したら再利用できないような端切れがたくさん出るパターンでカットしているのです。
そもそも生地自体の品質が良いので、生地を買うだけでも結構な金額になります。私が自分で生地を買って裁断し、縫製することを想像すると、その端切れの多さに、つい「もったいない…」と思ってしまうことが容易に想像されます。
それを考えると、安い服は、できるだけ端切れが出ないよう、効率と流行を追求した結果の工業製品だなあとしみじみ思うのです。
つまり、 効率と流行以外については優先度を落とす、という戦略です。

さて、消費者としてはより安くいいものを、という欲求を持つことは当然であるように思われます。
しかし、よく考えてみると、過剰に安さを求めることが、結果として自分の好きなデザイナーの自由で継続的な活動を不可能にしているのではないかとも思うのです。
景気が悪く、生活者として財布の紐を絞めるのは当然の帰結かもしれませんが、一方で、ファッションという文化とそれをリアルな生活に結びつける産業を大事にするために、消費者自身が投資をするという意識を育てる必要があるのでは?と思います。

ここからが本論です。
文化を育てる、社会正義を貫く、安心・安全を享受できる社会を育てる意味で、企業はそれ相応のコストを負担すべきではないか?
ひいては、そういった企業が存続できるよう、消費者自身が投資という意味で多少の価格上昇を受容すべきなのではないか?というのがこのエントリーにおける問題提起です。
そういったCSRの意識が高い企業だけがコストを負担する形では、結局割を食うだけになってしまいます。
社会の成熟度という意味で消費者が受容する素地を作ると同時に、産業によっては、ある程度仕組みとして企業にコストを負担を義務付ける必要があるのかもしれません。

ちなみに、この持論は原子力政策についても同様です。
公平さ、社会正義、安全の享受という観点から、原子力を排除し、企業にとっても消費者にとってもコスト増となったとしても、他のエネルギーに切り替えるべきというのが私の持論です。

2012年4月12日木曜日

ソーシャルコマースの可能性は?-Eコマースの変遷から読み解く(4)

大変長い記事であるため、複数回に分けてお送りしています。


前回、今後のEコマースの方向性として、次の4つの点について言及しました。

  1. Eコマースのメリットを充実させる仕組み
  2. Eコマースの欠点を補う仕組み
  3. コンテキスト消費を促す仕組み(オウンドメディア)
  4. コンテキスト消費を促す仕組み(ソーシャルコマース)
3と4のコンテキスト消費とは何か?-これについては説明が長くなるので、また次回として、今回は1と2について考察していきます。

1.Eコマースのメリットを充実させる仕組み

Eコマースのメリットをさらに充実させて、Eコマースの拡大を目指す方向性です。たとえば、「価格」や「検索性」などがあげられるでしょう。

「価格」の取り組みでは、招待制ブランド品セールのGILTが目をひきます。

月9の視聴率も落とす!? 招待制ブランド品セール「ギルト」の魅力とは(2009年11月26日)
キーワードは「知人からの招待制」「正規流通のブランド品」「最大70%OFF」。月曜だけではなくほぼ毎日21時からぴったり54時間セールが行われるが、カートにキープできる時間は10分だけ(チェックアウトしないと取り消される)。たいてい2時間で売り切れ、残っているのはXSかXLのサイズだけになるが、やがてそれもなくなる。
安さの秘密は、アパレルブランド側が何らかの理由で売りさばきたいものを直接買い付けしているから。いわゆる「わけあり」なのです。

「わけあり」には、楽天も目を付けています。

“楽天市場は少なくとも今の倍以上に成長する”国内最大手が見据えるこれからのEC(2010年4月19日)
例えば、“訳あり”商品の人気に火が付いているが、藤田氏は「理由も無く安いのは不安。“訳あり”は安い訳がないと売れない」と見ている。その点、ECは安い訳を店頭よりもじっくりと説明できるメリットがある。これまではテキストと画像だけだったが、動画も使うことができるようになり、商品説明という点でのECの優位性はさらに増すと見込んでいる
そのほかにも、くまポンやグルーポンなどのフラッシュマーケティングなど、価格を武器にEコマースを拡大する仕組みは検討に値します。

「価格」以外では、「検索性」も利便性を向上しする一つの手段です。たとえば、ZOZOタウンでは、

日経新聞2011年1月17日朝刊
千葉県習志野市にある約2万平方メートルの物流拠点の一角で、1点ずつ身に着けたモデルを社員カメラマンが撮影する。襟の形のアップなど10回ほどアングルを変える。サイトでは婦人靴ならヒールの高さから検索できるなど、かゆいところに手が届くサービスを盛り込んだ。
とあるように、「実際に自分の目で確かめられないから」「試着ができないから」ネットで洋服や靴は買えないという常識を、「検索性」を高めることで逆に覆し、検索できるからこそブランド横断で自分の欲しいものを探せるという強みに変えています。

このように、従来からEコマースの強みとされてきた特徴をさらに拡充し、利用者のリテンションを実現してEコマースを拡大していくことができるのではないでしょうか。

2.Eコマースの欠点を補う仕組み

Eコマースの欠点として、「実際に自分の目で見て確かめられない」「今すぐ使いたいのに手に入らない」というものがあげられます。これを解決することで、Eコマースを進化させるのが2つ目の方向性です。つまり、真の意味でのクリック&モルタルの実現です。

クリック&モルタルはすでにご承知のこととは思いますが、念のため書き添えますと、「実店舗とEコマースの両方で事業を行う」形態のビジネスです。たとえば、ビックカメラは実店舗を持ちながら、ネットショッピングも運営しています。とはいいつつも、オンラインでの売り上げは全売り上げの5%程度(記事参照)ということですから、ほとんどが実店舗のビジネスで成立していることになります。

ではなぜ、実店舗のビジネスをEコマースに取り込むことが重要なのでしょうか。

経済産業省が発表している電子商取引に関する調査報告では、2010年のEC化率(全商取引を分母としてEコマースで取引された割合)は2.46%にすぎません。つまり残りの97.5%は実店舗でのビジネスで取引されているわけです。Eコマースを拡大するにあたり、パイの大きな部分に手を付けていかざるをえないでしょう。

実際、Yahoo!やGoogleも、実店舗とインターネットを結び付ける方向性を示しています。

実店舗の商品を検索できる Google ローカルショッピング開始(2011年9月16日)
商品名を検索すると、付近の取り扱い店舗と価格が表示され、営業時間や店舗までのルートなどもそのまま調べることができます。iPhone / Android からの利用も可能。ちかごろは実店舗で品定めをして、ネットで価格を調べ買うというような購買行動も見られますが、これからはネットで調べて安い実店舗へ向かうというような行動も生まれるかもしれません。
まだまだはじまったばかりの取り組みですし、プラットフォーム側(Yahoo!やGoogle)がどのように出るのかわからないので、吉と出るか凶と出るかも判断しかねるのですが、クリック&モルタル戦略を実現して一躍存在感を増やす企業が出てもおかしくない状況と言えます。

余談ですが、米国の調査で、とモバイルで事前調査をした人の72%がワイヤレス機器を店頭で買っている(モバイル以外は55%)とのこと(記事参照)。ここからも、ネットで調べて実店舗で買う、という消費行動があることがうかがえます。

長くなってきましたので、今日はここまで。

ソーシャルコマースの可能性は?-Eコマースの変遷から読み解く(3)

大変長い記事であるため、複数回に分けてお送りしています。





EC洗練期・モバイルコマース勃興期が意味するもの

Eコマース市場が成熟化し、ビジネスモデル自体の洗練化が進んだこの時期。実は、ゼイヴェル(2008年に)の取り組みは、次のステージへの幕開けを告げるものでもありました。それは、それまでのECで購入されるものは「指名買い」「日用品」でしたが、ゼイヴェルは「ファッション」を売った、ということです。

「指名買い」では、ユーザーはすでに自分が何を欲しいのかを知っていました。「日用品」では、銘柄を指定することはなくても、何を必要としているのかはわかっていました。一番安い何か、一番売れている何かを買えば、ユーザーは満足していたのです。ところが「ファッション」は「センス」が売りのビジネスです。ユーザー自身が、「リーバイスの903が欲しい」と指名買いすることはめったにありませんし、ジーパンが欲しいからと言って、一番安い何か、一番売れている何かを買えば満足するというものでもありません。「ファッション」を売るとは、自分に似合うものは何かを探し当ててもらうこと、ひいては自分がどんなふうになりたいのかというイメージを売ることなのです。

Amazonや楽天のユーザーインターフェースでは、それを実現することはとても難しい。そこで出てくるのが、「クロスメディア」というキーワードです。インターネットというメディアと、雑誌、テレビ、ファッションショーなどのイベント、実店舗を持つアパレルブランド等の既存メディアを融合させる仕組み。それがクロスメディアのEコマースです。

クロスメディアで使用される媒体は、既存のメディアです。その特徴は、

  1. 「個」をターゲットとするインターネットと異なり、ある程度のマスを相手にしている
  2. パーソナライズを基本とするインターネットと異なり、それを見る人・そこを訪れる人に同じ体験(Look&Feel)を与える
  3. 断片的なコンテンツが浮遊するインターネットと異なり、ストーリー/文脈を持っている
というものです。

これらの要素を包含しているからこそ、流行が生まれる。流行があるからこそ、その流行の中に、なりたい自分の姿を描くことができる。なりたい自分の姿をそこに見ることができるから、それを実現するために商品を買う。流行とは、人の欲求を引き出し、それを購入すべきだと確信させる購買決定要因なのです。

既存のメディアは商品の検索や決済の機能はありません。逆にE従来のEコマースでは、流行を生み出すことができませんでした。Eコマースへのクロスメディア導入は、今まで売ることのできなかった「イメージ」や「センス」を売ることを可能にしたという点で画期的な事例であったといえます。

しかし、「イメージ」や「センス」を売ることは、クロスメディアの専売特許ではありません。何が欲しいのかわからないけれど、欲しいという欲求を起こさせる仕組みは、実はほかにもあります。それこそが、スマートフォンとソーシャルメディアが作り出す、ストーリー/文脈の中での消費、つまりソーシャルコマースです。

スマホ・ソーシャル時代

ここまで考察してきたように、Eコマースは成熟しています。そんな時代にあって、Eコマースは今後どんな可能性を取りうるのでしょうか。私は、次の4つの可能性を提言します。

  1. Eコマースのメリットを充実させる仕組み
  2. Eコマースの欠点を補う仕組み
  3. コンテキスト消費を促す仕組み(オウンドメディア)
  4. コンテキスト消費を促す仕組み(ソーシャルコマース)
詳しい説明は、また後日。

ソーシャルコマースの可能性は?-Eコマースの変遷から読み解く(2)

大変長い記事であるため、複数回に分けてお送りしています。前回の記事はこちら





EC洗練期

2000年代後半、Eコマースはさらに洗練されていきます。Eコマース事業者側も価格競争での消耗を避けるため、利便性を向上することで、Eコマースに付加価値を与える取り組みを始めました。それが、「商品のお届け日の短縮」「送料無料」という点です。

富士通総研の調査レポート「インターネットショッピング2010」によると、利用したネットショップのタイプと選んだ理由の1位は価格、2位は送料・配送条件、3位はポイント・特典等という順番でした。

EC市場の現状とECへの取り組みのポイント(2)~アマゾン・楽天2強時代と大手小売の挑戦~(富士通総研ホームページコラム2011年4月12日)

商品のお届け日の短縮化は、利便性向上の顕著な例です。もともと、Eコマースは「いま欲しいに応えられない」という特性をもっています。その欠点を改善するべく、Amazonは早くから物流の効率化を進めていました。2005年には千葉県市川市、2007年には千葉県八千代市、2009年には大阪府堺市、2010年には埼玉県川越市に、それぞれ次々と物流倉庫を整備しました。これにより、今オーダーすれば明日届く、「欲しいときに手にする」にほぼ近い消費体験を実現することができるようになったのです。物流への取り組みは、楽天も2008年から佐川急便と組んで「あす楽」というサービスを行っています。

また、送料という点で見てみると、Amazonはもともと購入金額1,500円以上で送料無料としていたのを、2010年に完全無料化しています。これに対応するように、楽天も同年、楽天Booksの送料を完全無料化しました。いまや、消費者にとって、送料は無料が当たり前の時代なのです。

「商品のお届け日の短縮」「送料無料」のような物流の効率化による、ユーザーの利便性の向上は、当然のことですが規模の経済が働かない限り実現は困難です。実際、前掲の富士通総研の調査レポート「インターネットショッピング2010」で、利用したサイトのタイプ(直近1回)について尋ねたところ、楽天(42.2%)とAmazon(14.1%)で過半数を占め、楽天とAmazonの2強時代であると分析されています。Eコマースの洗練化は、市場の成熟化、寡占化と表裏一体であるといえます。

では、もはや新規参入の道は残されていないのでしょうか。これについては、もう少し後で考察していきたいと思います。

モバイルコマース勃興期

2005年前後から、インターネットの主戦場はパソコンだけではなくなります。i-modeの普及、携帯画面のカラー化、ユーザーの成熟によって、モバイルコマースが台頭し始めました。拍車をかけたのは、デジタルネイティブと呼ばれる、生まれて物心ついた時にはインターネットを使っている世代が、消費をし始める年代になったということです。デジタルネイティブのユーザーは、パソコンを立ち上げることですら面倒くさい。消費すら、携帯の画面上で十分なのです。

このことを象徴的に表すビジネスが、ゼイヴェル(2008年ブランディングに社名変更)のEコマース事業です。ゼイヴェルという会社名を知らなくても、「東京ガールズコレクション」という名前を聞いたことがある人はいるかもしれません。

少し古い記事ですが、東京ガールズコレクションとモバイルコマースについて触れた記事がありました。

東京ガールズコレクションでモバイル通販体験 ゼイヴェルが仕掛ける「クリック&イベント」戦略(2007年2月16日)
東京ガールズコレクションの最大の特徴は、蛯原友里や押切もえ、土屋アンナといった人気モデルが当日着た服を、その場にいながらにして携帯電話の通販サイトから購入できることだ。ファッションショーと携帯電話を組み合わせた「クリック&イベント」とでも呼ぶべき、新しいEC(電子商取引)の形態として注目されている。
ゼイヴェルの直近の売上高は残念ながら見つけることはできませんでしたが、2008年3月期で170億円ほどあると推測され(記事参照)バカにすることができないビジネスだといえます。

追い風をかけるように、2007年にiPhoneが発売され、次いでAndroid携帯も含めたスマートフォンが市場を席巻します。携帯の手軽さと、パソコンのようなコンテンツの表現力を兼ね備えたスマートフォンは、モバイルコマースをさらに加速させたことは言うまでもありません

本日はここまで。

ソーシャルコマースの可能性は?-Eコマースの変遷から読み解く(1)

4月10日付のあるサイトの記事で、2015年にはソーシャルコマースの世界市場規模が2.5兆円になるというリサーチ結果を紹介していました。(もともとはROAHoldingsが2011年2月に発表したリサーチをもとにしたもののようです)

ECの未来はソーシャルに(東京IT新聞2012年4月10日)

FacebookやTwiteerといったソーシャルメディアをECに活用する「ソーシャルコマース」(2面右下に用語解説)が拡大しそうだ。日本では先月、国内最大のSNSを展開するミクシィがDeNAと共同で「mixiモール」を開始。Facebookを通じたEC展開も国内企業から各種ツールが相次いで提供されるなど、盛んとなる一方だ。世界市場で見ると現在は4100億円程度の規模だが、2015年には2.5兆円(300億ドル)となる予想も出ている。

一方、同じく4月10日付Yahoo!ニュース(東洋経済オンライン記事)では、ソーシャルコマースの難しさに言及する記事が掲載されていました。

ミクシィが新規参入、SNS通販は稼げるか(Yahoo!ニュース(東洋経済オンライン記事)2012年4月10日)

だが最近は、ソーシャルコマースの難しさも明らかになっている。米国ではアパレルのギャップや小売りのJCペニーなどがFB上の店を相次いで閉鎖した。ソーシャルメディアのコンサルティングを手掛けるエイベック研究所の武田隆社長は、その理由を「FBやミクシィは個人が社交する場所。企業がそこに土足で踏み込むことに抵抗感を持つユーザーは多い」と指摘する。

はじまったばかりの取り組みですので改善の余地はまだまだありそうですが、そもそもソーシャルコマースは、従来のEコマースと何が違うのでしょうか。Eコマースの変遷をたどりながら、Eコマースの本質について少し考えてみたいと思います。

大変長い記事であるため、複数回に分けてお送りいたします。



Eコマース黎明期

ダイヤルアップ回線でインターネットに接続していた時代、Eコマースは限られたユーザーに対する限定的なビジネスでした。Amazon(米国では1994年、日本では2000年事業開始)や楽天(1997年事業開始)もいまでこそ小売ビジネスで大きな存在感を示していますが、当時のEコマースはまだまだ黎明期というレベルでした。

当時のEコマースの利用者像は、インターネットユーザーそのものだったといえます。つまり、テクノロジーに詳しく、インターネットを使いこなすコアな層。また、インターネット回線の整備が大学を中心に進んだこともあり、大学関係者はインターネットに比較的慣れ親しんでいました。Eコマースは、まだビジネスとしても手探りだった状況で、当時のインターネットユーザー像である技術に詳しいマニアや大学関係者などが、店頭になかなか並んでいないような書籍やPC関連商品(ソフトウェアなど)を「指名買い」する場として発展してきました。

したがって、この時期のEコマースでは、一般のお店の店頭に並んでいないような専門的なものを取り揃えていることが成功要因でした。

Eコマース普及期

2000年前後にADSLによるブロードバンド接続が一般的になってきたことで、状況が一変します。インターネットに常時接続しておけるようになり、またユーザーインターフェースの改善、技術の進歩により、インターネットは家庭にあって当たり前のものとなります。

インターネットがリーチできる消費者のパイが広がったことで、Eコマースもより広いユーザーが利用するものとなりました。それに伴い、書籍やPC関連商品だけでなく、食品や飲料、日用雑貨といったものが購入されるようになり始めます。多くの企業がEコマースに参入し、たくさんの種類の商品が売買されるようになりました。

また、同じ2000年前後には、@cosume(1999年スタート)や価格.com(前身は1997年スタート、2000年から価格.comとしてスタート)などの口コミサイト、価格比較サイトが現れました。これらの口コミサイト、価格比較サイトは、ユーザーが情報を持ち寄って商品を横並びで比較することを可能にし、賢い消費者を誕生させることとなりました(いわゆる「プロシューマー」というもの)。また、同じ商品が複数のオンライン店舗で販売されているため、消費者は価格を比較して1円でも安いものを買うという消費行動をとるのが当たり前になりました。

このような状況下では、(1)できるだけ安い価格を提示すること、あるいは(2)価格競争を避けるために品ぞろえに工夫を凝らすこと(独占的に扱える商品を持つ、あるいは他が扱っていない商品を探し出して流行らせる)が重要な成功要因となりました。さらに、(3)集客や顧客のリテンションのためにDM等を使ったプロモーションを実施したり、(4)一人あたりの購入単価を上げるために顧客の情報をパーソナライズしレコメンデーションを表示する、などのプロモーション面での努力が必要とされるようになりました。

本日はここまで。

2012年4月11日水曜日

情報の「キュレーション」をうまく活用する

先日、レコメンデーションエンジンの限界とライフスタイル提案型ECの可能性という記事の中で、(一部で流行っている)「キュレーション」という言葉について触れました。

「キュレーション」とは、もともとは博物館や美術館等の施設において、収蔵品を鑑定、分類し、収集することを指します。しかし、昨今ネット上で使われる際の「キュレーション」という言葉は、正確には「デジタル・キュレーション」のことで、ネット上の情報を収集し、交通整理をして他の人に再配布する行為のことを指しています。

この行為の重要な点は、有名人ではなくとも、ある道について専門の知識を持った「普通の人」が、自分の知識を活かしてその恩恵を他の人に提供することができるという点です。

ここでいう知識とは、「ある分野に関する体系化された網羅的な情報群」ではなく、「情報に重軽や優先順位をつけたり、(一見何のつながりがないように見えても)情報間につながりを持たせ、その分野の本質をつかむための情報群」です。

本当にその道を極めるのでなければ、体系化された網羅的な情報は不要です。そもそも、人類が重ねてきた歴史を考えれば、どんなに分野を限定しても網羅することは不可能でしょう。しかし、武道を極めたい人が禅の精神を理解したいと願ったり、ビジネスを成功させたいと思う人が人生の指針として思想家の考え方を学びたいと考えるのは自然なことです。そのときに必要なのは、体系化された網羅的な情報ではなく、その分野の本質をつかむための情報です。

そういった意味で、ネット上に氾濫する情報を効率的に吸収するために、誰かがキュレートした情報を選別することは理にかなっています。

さらに言えば、「キュレーション」は情報の選別だけでなく、ビジネスの可能性を秘めています。

たとえば、下記に示す、糸井重里氏の「本のコンシェルジュ」い関する連続ツイートはその一例と言えるでしょう。「キュレーション」をどうビジネスに活かすかについては、もう少し詳しく考えたいので、またの機会に書きたいと思います。

2012年4月6日金曜日

「ひととなり消費」が必要とされる理由

昨日のポストで、「ひととなり消費」という言葉を使いました。一言でいえば、「その人が好きだから、信頼できるから、おススメの商品を買う消費スタイル」です。

私が「ひととなり消費」が必要になると考える理由は2つあります。

一つ目は、人々が選ぶことに疲れている、という点です。 日経ビジネスオンラインで、ダイソーの矢野博丈社長が次のように述べているのが印象的でした。

引用元:
「潰れる恐怖から店をオシャレにしました」 ザ・ダイソー矢野社長の“進化”(2012/4/3)
近年は、お客様は本当に変わられました。コンビニ現象とでも言うのですかね、今のお客様は、思ったものを思ったところでパッと買いたいのです。100円ショップは、アイテムをたくさん揃えて、宝探しのような楽しさを強調していましたが、今のお客様は、それが面倒臭いのです。選ぶ面倒臭さが、波のように押し寄せてきている。
情報の多様さ、商品・サービスの豊富さが、選択を難しくさせているのです。日常生活のピンからキリまで、どの瞬間にも判断と選択を求められる現代にあって、判断や選択は、自由や権利ではなく義務なのです。義務であれば、消費における判断と選択を、自分とセンスの近い人にゆだねてしまえば楽になる。そのような心理が働くのは想像に難くありません。

二つ目の理由は、「欲しいものがないから消費しないだけで、消費する理由があれば消費する余力はある」という点です。 たとえば、旅行。若者の旅行離れが報じられていますが、本当に若者が旅行したくなくなったのか。それは違います。もっと面白いものが旅行以外にあるから、旅行に行かなくなっているだけです。

引用元:
ツーリズム・マーケティング研究所レポート
「戦後60年のライフスタイル・価値観の変化と今後の旅行の行方」(2012/3)
かつて「旅行」は、誰もが得たいと思う夢の一つであり、他の消費を我慢しても手に入れたいものだった。消費の成熟化とともに、横並び意識もなくなり、各自の価値観で消費は選択されるようになっている現在、旅行は行きたい人が行く時代になっている。現に海外旅行へは行く人と行かない人とに二分され、行く人はリピーター化して、行かない人は全く行かない、というのが現状である。
一部の若者にとって「旅行」という商品は、無条件の魅力を感じるものではなくなり、消費したいと思わなくなった。それが若者の旅行離れにつながっているというわけです。

欲しいものがない、だけれども消費したい。そのような人に対して、売る側ができることは、「欲しいと思わせるような商品・サービスを企画・開発すること」「魅力を最大限に訴求すること」です。前者の「欲しいと思わせるような商品・サービスを企画・開発すること」はかなり難しい。なぜならば、売り手も消費者のニーズがわからないし、消費者自身ですら何が欲しいのかわかならないからです。もちろん、アップルのように、消費者のニーズではなく自分たちが売れるはずだと信じるものを作り世に送り出すことで、マーケットを作り出していくという方法もあるでしょう。しかし、リスクも高く、かなり強い信念がなければそれを突き通すのは難しい。そこで目を向けたいのが、「魅力を最大限に訴求すること」です。

「魅力を最大限に訴求すること」は、「いまいる顧客に対して訴求すること」と「これから顧客になるかも知れない人を発見し、その人に対して訴求すること」です。そして、「ひととなり消費」がうまく作用するのは、後者の「これから顧客になるかもしれない人を発見する」場面においてなのです。「友達の友達はみな友達」式に、自分が好きな人・信頼する人がおススメする商品・サービスならば信頼できる。そのようなネットワークが自社にとって有利に働くような状態を作り上げるために、多くの人に信頼してもらっている人を育成していくことが、「ひととなり消費」を攻略する鍵です。一番コントロールしやすいのは、売り手側の人間にソーシャルネットワークを使ってもらい、自由に活動させることで顧客の歓心を得ることでしょう。しかし、口コミやレビューのセミプロや、大きなネットワークを持っている、オピニオンリーダー的な人を、自社のネットワークにつなげていく方法を検討してみる、というのも手です。

様々なソーシャルメディアが乱立し、新たな機能の追加や既存機能の変更もめまぐるしく実施されている現状。企業にとっては、ソーシャルメディアを完璧に使いこなすことは難しいかもしれません。しかし、本質的に「ひととなり消費」を押さえていくのだということを意識することで、何をすべきで何をすべきではないのかが判断しやすくなるのではないでしょうか。